平成28年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"
「劇場・音楽堂等における東京オリンピック・パラリンピック文化プログラムを考える」
パネルディスカッション 各団体報告5
地方劇場における文化プログラムの考え方
園山土筆
松江市八雲林間劇場 しいの実シアター
アートディレクター
(1)国内最小の公立劇場「しいの実シアター」とは
島根県の人口は約70万人。県庁所在地・松江市は人口20万人。出雲大社のある出雲地方は八百万の神様がいらっしゃるので人間よりも神様の方が多いといわれています。京都・奈良と並ぶ国際文化観光都市であり、国宝・松江城と宍道湖、美味しい魚が名物です。しいの実シアターがある八雲町はJR松江駅から車で20分。シアター周辺にはホテル、レストラン、コンビニ、自動販売機もなく、公共交通機関も土日は運休するという山里です。
しいの実シアターは21年前の1995年、NPO法人あしぶえが3千万円の寄付を集めることがきっかけとなって、1億84百万円(総工費3億円)の国内初の公設民営劇場として誕生しました。観客から「森の劇場」と呼ばれるこのシアターは全て木造り、席数は108、最大収容は132名の国内最小の公立劇場です。最初は1人だったスタッフも今は11人に増えました。小ささゆえの苦労もあり、公演中は隣接するオフィス内は電話・FAXはもちろん話し声、トイレ、足音、キッチンの音、明かりも厳禁という劇場です。
運営資金としては松江市からの指定管理料1260万円と、3年に一度の国際演劇祭への松江市補助金(人件費含む)2048万円を受けています。
(2)しいの実シアターの主な事業
- 専属劇団による制作・上演
発足50年を迎えた専属劇団あしぶえによる代表作「セロ弾きのゴーシュ」は、初演から27年。深化を続け、上演回数は160回、観客は3.5万人を数え、海外の国際賞を6つ受賞しました。日本語・英語の字幕や手話通訳つき公演などの聴覚障害者対応や、大きな劇場でのアウトリーチ公演も行っています。 - 八雲国際演劇祭の開催
2001年に始まった八雲国際演劇祭は、2014年に第5回を迎え、厳選した6カ国15集団の18作品が上演されました。320名の完全無償ボランティア(フェスティバル・クルー)が演劇祭を支えましたが、この中から17年以上経験のあるボランティアに対して、現在プロ化を図っています。海外劇団員の7泊8日に及ぶホームステイや、中高生のガイド、仮設レストランなどで多くの交流が生まれました。行政・企業・住民からのファンドレイジングにも注力し、支援企業は97社、寄付金は767万円が集まりました。 - 表現・コミュニケーション能力育成
コミュニケーション力低下が社会問題化していることに対応し、1999年に開始した「コミュニケーションワークショップ」は、幼稚園・保育園・小中学校、子育てグループ、先生、PTA、専門学校、大学、企業、財団などからの依頼が加速度的に増え、現在は年間100回以上開催、4000人の受講者を集めるまでになりました。これは重要な収入源となっています。 - しいの実シアター未来学校
小学校4年生から中学生を対象に、芸術体験と暮らし体験を通して「未来の地域を創る人材」を養成する学校を今年度開校しました。短期プログラムの最後には総合芸術である舞台劇を子どもたち自身で創り上げ、将来は子どもたちが運営する劇場を目指します。
(3)文化プログラムへの提案
演劇祭の事例が示すように、劇場が小さくても、中山間地で人が少なくても、予算が少なくても、工夫次第で出来ることは多々あります。文化プログラムもまた、限りある予算であっても、新しい発想で文化庁が新たなお墨付きを考えたり、日本独自のやり方で継続事業の新規展開を図ったり、全国各地で各劇場が地域課題に向き合ったりする絶好の機会ととらえることができます。私たちは八雲国際演劇祭を、世界がもっと注目する演劇祭に育てるとともに、国際化・文化・観光に力を入れ、仕事にしていきたい。さらに、少子化対策として、劇場をもっと子どもたちを育てる場にしていきたいと考えています。
平成28年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"
開会挨拶
基調報告
パネルディスカッション
- 東京都が主導する文化プログラムの考え方と取組み
- アーツカウンシルの設立に向けた新潟市の取り組み
- 障害者プログラムの考え方と事例
- 文化の力による心の復興事業 2~3の事例から
- 地方劇場における文化プログラムの考え方