平成28年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"
「劇場・音楽堂等における東京オリンピック・パラリンピック文化プログラムを考える」
基調報告1 文化プログラムと劇場・音楽堂等
片山泰輔
静岡文化芸術大学文化政策学部教授・大学院文化政策研究科長
(1)劇場・音楽堂等の公共性
「文化芸術振興基本法」(2001年)にうたわれる通り、文化や芸術は、人々が生まれながら持つ人権「文化権」のもとに、全ての人間に創造・享受が保障されるべきものであると同時に、社会の発展に寄与する公益的役割を持つものです。また劇場・音楽堂等は、同法のもと、単なる愛好家のための教養・趣味・娯楽の場にとどまらない、社会のさまざまな公益を担う「機関」とされています。このことは「劇場・音楽堂等の活性化に関する法律」(通称:劇場法 2012年)にも明記されています。
このように、文化芸術およびその推進機関である劇場・音楽堂等の公共性と重要性は、法的・学術的に明確であるものの、多くの国民に共有されてはいない現状があります。文化は不要不急のものであり、福祉、経済成長、安全保障がより重要といった誤解・無理解が蔓延しています。しかし、本来文化政策は他の政策課題と比較して優先順位を議論するような「縦割り」の政策ではなく、それらを通貫する「横串」として捉えられるべきものです。むしろ、質の高い福祉サービスや、産業の高付加価値化、世界の相互理解と平和のためにも、文化が重要である点を認識することが必要です。
(2)オリンピック・パラリンピックの文化プログラム
文化プログラムは、スポーツ大会を盛り上げるための単なる余興ではなく、オリンピック憲章の理念にもとづく本来的かつ中心的な活動です。オリンピズムは、スポーツを文化・教育と融合させ、生き方の創造を探求するものであり、さらに開催都市のみならず、「開催国全体に」有益な遺産(レガシー)をもたらすことを目指しています。この点は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における地方の位置付けを考える上で特に重要です。
(3)「文化芸術の振興に関する第4次基本方針」と「文化芸術立国」
2015年5月に閣議決定された「文化芸術の振興に関する第4次基本方針」では、日本が目指すべき「文化芸術立国」の姿が提示されました。ポイントは、文化権の保障を官民協働で行うこと、文化プログラムの実施を通じ、東日本大震災の被災地を含む日本全国(東京だけでなく)から活発な発信がなされるようになっていること、さらに、これらを推進する職業・産業を確立することです。文化を単なる余暇時間の消費活動の問題と捉えるのではなく、国民の文化権を保障し、さまざまな公益をもたらす基幹産業として文化や芸術を発展させていくことが、文化芸術立国の実現には不可欠です。
(4)「文化芸術立国」実現に向けた文化プログラムの意義と戦略
上の観点から、文化プログラムを一過性の打ち上げ花火に終わらせることなく、2020年以降も「レガシー(遺産)」として、全国からの文化的発信が持続するような人材と仕組みを残していく必要があります。これは、そのためのまたとないチャンスです。
それぞれの劇場・音楽堂等が文化プログラムの経験を活かして、「自立経営型」を確立することが重要です。魅力的なプログラムを企画・制作できる人材の育成に加え、プログラムの事業収入および助成収入の拡充につながる中長期的な「仕組み」をつくることも必要であり、全国で進むアーツカウンシル設立もその動きの一つです。当然、これらを支える劇場・音楽堂等の経営者と、自治体文化政策の専門職員の育成・充実も不可欠となります。
理想の実現までには難しい点もありますが、本日お集まりのすばらしいパネリストからもヒントを得て、後ほど皆さんとディスカッションしたいと思います。
平成28年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"
開会挨拶
基調報告
パネルディスカッション
- 東京都が主導する文化プログラムの考え方と取組み
- アーツカウンシルの設立に向けた新潟市の取り組み
- 障害者プログラムの考え方と事例
- 文化の力による心の復興事業 2~3の事例から
- 地方劇場における文化プログラムの考え方