平成28年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"
「劇場・音楽堂等における東京オリンピック・パラリンピック文化プログラムを考える」
パネルディスカッション 各団体報告4
文化の力による心の復興事業 2~3の事例から
志賀野桂一
白河文化交流館コミネス館長・プロデューサー
東北文化学園大学特任教授
(1)絵本音楽劇・多賀城版オペラ「魔法の笛」
4月から人口約6万2000人の福島県白河市の文化会館の館長に就任しましたが、本日はその前に手掛けた人口6万2000余人の多賀城市の事例も併せて、小さな都市でもトライできる文化事業の可能性について報告します。
一つは多賀城市で取り組んだ「世界絵本フェスタ」での絵本音楽劇・多賀城版オペラ「魔法の笛」の制作です。これは内閣府の地方創生交付金の二次募集に際し、多賀城市の依頼を受けて立ち上げたプロジェクトで、2015年11月に決定して年度末に終了した自主企画公演です。
物語はモーツァルトのオペラ「魔笛」をベースに、舞台設定を東洋に移して、人間の愛と和解、若者の成長の物語に翻案しました。配役やスタッフ構成は多様な人材養成を狙い、演奏は二期会のソリストをはじめとする一流のプロ音楽家を軸に、合唱や子役には市民が参加。ライオンの登場シーンでは地元高校の獅子舞部が活躍しました。能楽師と地元のデザイナーが共同制作した衣装も話題となって、公演後に衣装展やミニコンサートが開催されました。
オペラは総合芸術といわれる通り、さまざまな芸術ジャンルのアーティスト、スタッフ、専門職が協力して作品をつくり上げるプロセスが人材育成につながります。
「世界絵本フェスタ」の全体予算5000万円のうち、オペラには2200万円を投入しました。(2)FUKUSHIMA白河版オペラ「魔笛」にリメイク
白河と多賀城はどちらも「歴史まちづくり法」に基づいて、歴史的風致を維持していくことが定められた都市です。同じ歴史の町として、「魔法の笛」の白河版リメイクを現在行っています。資金は市の予算に加えて「文化の力による心の復興事業」(文化庁)の助成を受けることになっています。主役の名前も白河にちなんだものに付け替え、2017年(平成29年)3月の公演に向けて準備中です。
(3)「かたりつぎ」プロジェクト
東日本大震災の記憶を伝える「かたりつぎ」は、東北大学災害科学国際研究所がもつ3000件の証言アーカイブから数篇を選んで詩のかたちにしたものを、女優の竹下景子氏が朗読するもので、震災の教訓を風化させず、防災・減災教育として大切なメッセージを次代に伝え、明日を生きる勇気や希望を感じてもらう〈科学と芸術〉の融合イベントです。
震災の起きた2011年度からこれまで5回継続されており、2回目からは東北大学災害科学国際研究所が主催者に加わり、3回目からは震災巨大壁画を描いて世界防災会議でも話題になった加川広重氏の震災三部作を舞台背景に使っています。飯館村をテーマとする6回目は「かたりつぎin白河~竹下景子詩の朗読と音楽の夕べ2017」と題して、2017年3月に白河で開催予定です。
(4)関連事業・市民力とアートの力
同じく2017年3月に、白河文化交流館市民クラブのプロデュースによる「FUKUSHIMA & KOBE 祈りと希望のコンサート」を開催します。これは神戸の公益財団法人神戸文化支援基金や復興支援実行委員会の協力で実施するミニ・シンポジウムとパフォーマンス、コンサートの企画で、やはり加川広重氏の震災三部作の巨大壁画を舞台美術とします。
震災復興はまだまだ道半ばであり、10万人以上が避難生活を続けています。福島では3万2000人がいまだ郷土に戻れず、2万1000世帯が故郷を奪われた状態にいます。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、復興した姿を内外に示すと同時に、震災復興を加速させる文化イベントがあってしかるべきだと考えます。
平成28年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"
開会挨拶
基調報告
パネルディスカッション
- 東京都が主導する文化プログラムの考え方と取組み
- アーツカウンシルの設立に向けた新潟市の取り組み
- 障害者プログラムの考え方と事例
- 文化の力による心の復興事業 2~3の事例から
- 地方劇場における文化プログラムの考え方