平成29年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"
「劇場・音楽堂等と地域文化創生」
パネルディスカッション 報告へのコメント
中川 幾郎
帝塚山大学名誉教授
田村さんと片山さんのお話に共通した要素として、「専門性を持った職員をどのように配置につけ、育て、確保するか」は劇場・音楽堂等にとって重要な問題になっているということがあります。ホールが持っている地域社会に対するミッションを、ホール経営者サイドとして明確にしていかなければならないと改めて感じました。
その際、施設設置者である本庁の文化担当者や企画課、財政課など、専門性の乏しい行政職が壁になっている現状があります。この壁を突破する方法は、現場のホールで育てた人材やアイデアを逆に本庁にぶつけていくことだと私は思います。「文化振興基本計画とはこうあるべきではないのですか」「文化ホールはこう位置付けられるべきではないですか」と言える職員を、ホールが持つことが必要です。
私もそれに近いことを試みており、その一番の見本が可児市文化創造センター(ala)です。館長兼劇場総監督の衛紀生さんは条例も計画もないところで活動を始めましたが、alaの実践事例を基に後から条例や計画が、ホールを守るために整備されていきました。皆さんもこうしたインパクトを与えるホール経営をしてはいかがでしょうか。
大石さんにも大変シャープなお話をいただき、地域を足がかりとして立つ公共劇場はこうあるべきだと痛感しました。「協力」から「協働」、「市民参加」から「市民参画」へと流れは変わってきています。「協働」とはもともとヴィンセント・オストロムが提唱したcoproduction、つまり公益の協働生産です。課題の共通認識、施策立案、実施、評価、すべてを共にするというルールです。事業は施設が決めて、市民の皆さん助けてくださいというのは「協働」ではなくアリバイ型共同参加です。大事なのは「施設が立地している地域コミュニティの子どもたちは、障害者はこういう状況である」という現状の共同認識から始めていくことです。その手順がちゃんと踏まれている限り、非常に大きな力になると思います。
お三方とも劇場のミッションを語られましたが、改めて「劇場のミッション」「抱えている課題」「克服するための事業、施策」を認識した上で、施策の説明ができるようにすることが重要です。
文化庁の「劇場・音楽堂等活性化事業」の助成金申請様式に、事業のミッションを書く部分があります。「市民文化の振興に資するため」と書くことが多いと思いますが、本来は大石さんがおっしゃったようなことを書くべきでしょう。申請様式には専門職の配置を書く部分もあり、「技術」「企画制作」「劇場経営」「アートマネジメント」の概ね4つに分けられています。ここから、今の助成金の思想も「ミッションの明確化」と「専門職、専門性の確立」を願っているように推測できます。片山さんが言われた政策をぶつける力を持つ人も、企画や経営のプロから生まれてくるのではないかと私は考えています。