平成29年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"
「劇場・音楽堂等と地域文化創生」

パネルディスカッション 報告2
「転換期の日本の文化政策に劇場・音楽堂等はどのように貢献すべきか」

片山 泰輔
静岡文化芸術大学文化政策学部教授・大学院文化政策研究科長

(1)歴史的変遷

私は財政学をバックグラウンドに政策の研究をしながら、芸術団体の役員、公立のアートセンターの指定管理団体の代表理事も務めています。研究者と実務家の両方の立場を踏まえて、日本の文化政策が大きく変わりつつある中で、劇場・音楽堂等がどういう形で地域文化創生に貢献していけるのかをお話しします。

20世紀までの日本の文化は教養・趣味・娯楽と捉えられていました。1980年代半ば以降にバブル期に向かうレジャーブームがありましたが、文化の法的な位置付けはなされないままでした。同時期に自治体が文化事業として多数建設した劇場・音楽堂等も、愛好家が楽しむ場所という位置付けが主流でした。

1995年の阪神淡路大震災が転機となり、避難所や復興現場における芸術文化の貢献が注目されました。こうした中、1948年の世界人権宣言で謳われていながら日本の法律には明文化されていなかった文化権をきちんと位置づけることが必要になり、平成13(2001)年に「文化芸術振興基本法」が制定されました。

基本法を受けて、平成24(2012)年に「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律(通称:劇場法)」が制定され、公立文化施設は社会にとって重要な役割を果たす公的機関と位置づけられました。それは単なる建物ではなく、創意と知見を持った専門職の人たちの組織であると定義されたことも大きな変化です。

そして今回改正された「文化芸術基本法」では、文化権の保障の対象として障害の有無や年齢を問わないことが明記され、さまざまな政策課題の解決に文化政策を活用していくために、地方文化芸術推進基本計画の策定が努力義務として課されました。

(2)2020年に向けた文化政策の新たな展開

新しい基本法に加えて、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の文化プログラムを通して、社会の課題解決のための総合的な文化施策に取り組んでいくのは非常に高度な政策目標です。他者理解や多様性の受け入れ、社会包摂などへの対応を進め、共生社会と世界平和の実現につなげていく必要があります。

各地方自治体には高度な政策立案推進能力が求められますが、残念ながら多くの自治体では短期の人事異動や、前例主義の組織文化などが壁となって、かなりの苦戦が予想されます。これには外部の専門的な人材の力を借りる必要があると私は考えます。

(3)劇場・音楽堂等への期待

劇場・音楽堂等で働く専門的人材は、「文化や芸術の力」とその意義を理解しており、芸術を通じた社会包摂、ウェルビーイング(良好な状態)、創造性の促進と新産業等の実例を、自らの経験として説得力を持って示すことができます。そうした劇場・音楽堂等の現場で働く役員や職員が、自治体の担当職員を支援し、日常のコミュニケーションの中で、劇場で起こっている重要なことを共有したり、市役所にいる人たちを劇場に連れてきて見てもらうといったことが必要です。

政策形成に貢献する劇場・音楽堂等の専門人材には次の3つのタイプがあります。

  • 公演等の事業の「制作」ができる人材(劇場法13条の「制作者」)
  • 劇場・音楽堂等という機関の「経営」ができる人材(劇場法13条の「経営者」)
  • 劇場・音楽堂等を地域の文化政策手段として活かす「政策」立案ができる人材

転換期の日本の文化政策に対して積極的な貢献を行うには、3つ目の文化政策が立案できる人材を育成し、設置者である自治体文化政策の革新を図ることが重要です。

平成29年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"

開会挨拶

基調報告

文化政策の動向と今後の展望について

講演

  1. 2020年に向けた文化情報発信のあり方
  2. 文化庁京都移転と地域文化創生

パネルディスカッション

  1. 公共文化施設は誰のため、何のため
  2. 転換期の日本の文化政策に劇場・音楽堂等はどのように貢献すべきか
  3. 人と人との交流を基本とする劇場・音楽堂等の新しいあり方

意見交換・質疑応答

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