平成29年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"
「劇場・音楽堂等と地域文化創生」
パネルディスカッション 報告1
「公共文化施設は誰のため、何のため」
田村 孝子
(公社)全国公立文化施設協会副会長
(1)公共文化施設(公共劇場)は「誰のため」「何のため」
私は3年前まで静岡県コンベンションアーツセンター(愛称グランシップ)の館長を務め、皆さまと同様に公立文化施設を運営しつつ、やらなくてはならないことを考えてきました。今日はその立場でお話しします。
公共文化施設は「誰のため」にあるかと言えば、地域住民のためであることは確かです。学校や病院、福祉施設、図書館、美術館には国家資格のある専門家がいて、地域住民に貢献しています。公共の文化施設も同じであるとは考えられないでしょうか。日本では、芸術文化は一部の愛好家のもので、すべての人のものだと考える人が少ないことが大きな問題です。
次に公共文化施設は「何のため」の場所かというと、文化や芸術の力を活用して生きる力を育む場であると思います。芸術家や芸術団体の方は、「劇場やホールは自分たちが活動する場である」と捉えがちです。しかし本来は、先ほどの医者や教師と同様に社会貢献として、生きる力を育む場をつくる専門家として働かなくてはならないということを考えていただきたいと思います。
平成13(2001)年に「文化芸術振興基本法」ができましたが、文化芸術という言葉はこのときに初めてできた言葉と思います。法隆寺の壁画が焼けて文化財保護法ができたように、文化に関する法律は常に対処療法として整備されてきました。1994年には音楽界の熱意で「音楽文化の振興のための学習環境の整備等に関する法律」という長い名前の法律が成立していますが、これは美術界や演劇界の理解が得られなかった経緯もあったようです。
そんな中で芸術文化団体が一生懸命努力し、研究してできたのが「文化芸術振興基本法」、そして今年改正された「文化芸術基本法」です。本来は文化基本法となりその下に個別法をつくるべきところですが、今回も残念ながら文化芸術という言葉が消えなかったことに対し、ぜひ皆さまに声をあげていただきたいと思います。
かつて、国が継続的に行ってきた子どもの芸術鑑賞事業が、あの事業仕分けによって地方自治体が担えといわれたのです。それに対し、一般の人から文科省に11万3000件の抗議メールが届いたそうです。それが力になって、基本方針を前倒しする形で「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律(通称:劇場法)」が制定されました。皆さまの声をきちんした形で届けることは、非常に大事なことです。(2)文化・芸術の活用
文化(Culture)は、人の生活を良くするもの、体と心の健康を豊かにするものです。一方芸術(Art)は、時代を超えて次の時代を導くもの、明日を切り開くヒントを与えてくれるものです。
爆笑問題の太田光さんは高校3年生のときにピカソの展覧会を見て衝撃を受け、人生が変わったと言っておられます。「中学生のための音楽会」の感想文に、「こんなにいろいろな国の人がいて、いろんな楽器があって、それなのに一つに聞こえて、震えるほど感動した。今日のためによほど練習をしたに違いない。自分は将来何になるかわからないけれど、今日のオーケストラの方たちの姿勢は学びたい」と書いた生徒がいました。芸術鑑賞とはそういうものだということを、考えていただきたいと思います。
(「第10回グランシップ音楽の広場」映像上映)
グランシップの大ホールで毎夏開かれるこの音楽会はアマチュア800人、プロ、お客様、サポーター、学生インターン、ホールスタッフなど、3,000人の人々が一生懸命取り組んだ時に感動の瞬間が生まれることを感じてほしいと思って続けてきました。今年は10周年記念ということで、90歳の宮城まり子さんと、創立50年のねむの木学園の方たちにもご参加いただきました。この300人の円形のオーケストラは、マチュアのオーケストラが20もある静岡だからこそ実現できた企画です。
地域のアマチュアの方に発表の場を提供するというのはよくやられていることですが、そこからさらにステップアップして、催し物としてハイクオリティなものにすることが大切だと考えます。皆さまもそれぞれの地域にどんな宝があるか、ぜひ探して、生かしていただければと願っています。