平成29年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"
「劇場・音楽堂等と地域文化創生」

講演2 「文化庁京都移転と地域文化創生」

佐々木 雅幸
同志社大学教授/大阪市立大学名誉教授

(1)文化庁京都移転の背景

文化庁の移転には2人の人物が大きく関わっています。一人はヨーロッパの文化政策に大きな影響を与えたフランスの元文化大臣ジャック・ラング氏、もう一人が著名な臨床心理学者であり、国際日本文化研究センター長時代に文化庁長官になられた故・河合隼雄先生です。

私は平成11(1999)年にフィレンツェで行われた「欧州文化首都」についての研究会議で、河合先生とお会いしました。「欧州文化首都」とはジャック・ラング氏のアイデアで、ユーロ導入によってヨーロッパが一つの共同体としてまとまる一方で、都市の文化的な多様性と自立性を保つための仕組みです。毎年一つの都市を決めて文化事業を集中し、都市・地域の再生、市民活動の高揚に取り組むのです。河合先生と私は、同様の取組みを日本で、また日本と中国、韓国の東アジア全体で実現させたいという意見で一致しました。

河合先生は平成14(2002)年に文化庁長官に就任されましたが、ご高齢でもあり、週の後半は京都で執務したいと希望され、国立京都博物館に長官分室が置かれました。平成18(2006)年のご逝去後も、京都府、京都市、商工会議所の方々が分室を残したいと考え、「関西元気文化圏推進・連携室」や「文化芸術創造都市振興室」という形で存続させてきました。

河合先生はまた、東京への首都機能の一極集中は成熟した日本社会の将来にとって望ましくないとして、日本の文化が集積して保存されている京都への文化庁移転を提唱されていました。その夢を託された者たちが、10年以上に渡り要求を続けてきたところに、安倍内閣の地域創生事業の一環として政府機関移転のプログラムが持ち上がり、今回の移転決定につながったものです。

移転は機能強化とワンセットです。文化の社会的・経済的機能がより重要になってくる中、文化庁が新体制の下でより深い文化行政をリードし、実績を積み上げていくよう願っています。

(2)世界に広がる創造都市ネットワーク

イギリスのジョン・ラスキンは「芸術文化は固有の価値を持っている」と唱え、文化経済学を構想しました。この考え方はベネチアの建物の保存やイギリスのナショナル・トラストに影響を与え、ユネスコの活動にも受け継がれています。国連が2030年に向けて推進するSDGs(持続可能な開発目標)においても、社会問題に対する文化の貢献が模索されています。

こうした観点から私が20年ほど進めてきたのが、市民一人一人が創造的に働き暮らし活動する「創造都市」づくりです。イギリス政府は、音楽、映画、デザイン、ファッションなどの13産業を「創造産業」として、国を挙げて後押しするクリエイティブ・ロンドン政策を10年に渡って推進しました。その一つのピークとして、ロンドン・オリンピックではイギリス全土で約18万件の文化イベントが行われたといわれています。

アメリカではリチャード・フロリダが「クリエイティブ・クラス」という概念を提唱し、クリエイティブな人たちが集まる場所の特徴は3T(タレント、テクノロジー、トレランス:寛容性)であると分析しました。

これらの動きを受けてユネスコでは創造都市のネットワークづくりを始めており、現在7ジャンル、180都市が加盟しています。現代アートの街バルセロナ、市の予算の13〜14%を文化に割くナント、クリエイティブツーリズムで注目されるサンタフェ、音楽都市ボローニャなど、世界中で先進的な取組みが進められています。

(3)日本の創造都市の現在

日本の創造都市の流れは21世紀の初めに、金沢市から始まりました。私は1985年から2000年の間金沢大学にいて、当時の金沢市長や経済界の方々と、創造都市実現に向けてディスカッションを重ねてきました。

最初に24時間利用できる市民参画型の練習場として金沢市民芸術村を開設。続いて蓑豊氏が初代館長を務め、現代アートの美術館としては異例の入場者数を維持する金沢21世紀美術館、「オーケストラが住むホール」である石川県立音楽堂などが実現し、精力的に活動しています。

このほか、ヨコハマトリエンナーレを続けている横浜市や、文化庁が社会包摂型文化政策の拠点と位置付ける岐阜県可児市(可児市文化創造センターはイギリスのウェストヨークシャー・プレイハウスと提携)など、現在全国で96の自治体が創造都市ネットワーク日本に参加しています。皆さまもご一緒にぜひこの波を広げ、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のレガシーにしていきたいと願っています。

平成29年度文化庁委託事業 劇場・音楽堂等基盤整備事業"情報フォーラム"

開会挨拶

基調報告

文化政策の動向と今後の展望について

講演

  1. 2020年に向けた文化情報発信のあり方
  2. 文化庁京都移転と地域文化創生

パネルディスカッション

  1. 公共文化施設は誰のため、何のため
  2. 転換期の日本の文化政策に劇場・音楽堂等はどのように貢献すべきか
  3. 人と人との交流を基本とする劇場・音楽堂等の新しいあり方

意見交換・質疑応答

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