平成27年度「劇場・音楽堂等施設改修相談会」
個別相談会 相談内容3 特定天井
回答者
日本耐震天井施工協同組合(JACCA)
技術委員長
塩入 徹
天井の耐震改修はどのような手順で進めればよいか。
まずは改修の方針を立て、現状調査を行ってから基本設計を行う。方針を決めるにあたっては、国の基準通り行うか、国の基準ではないが、とりあえず安全対策をするのかを考える。前者の方が耐震改修の基準が明確であるため、監査上の問題が起こりにくいといえる。予算についても、独自予算でやるのか、補助金を用いるのかよく検討する。
設計時には調査を行うが、そこに天井の耐震診断も組み込んでおくとよい。その場合、必ず天井の専門家に診断してもらい、支持構造部の確認と構造検討を行うことが重要である。
特定天井の耐震改修には、どのような方法があるのか。
天井の耐震改修には、主に4種類(撤去/撤去して耐震天井を新設/撤去して軽量柔軟な天井を新設/撤去して天井と建物を一体化)の方法がある。
既存天井の脱落対策としては、国交省告示771号の解説に掲載されているワイヤーやネット等で落下を防止するフェイルセーフ技術があるが、ホールのような複雑な形状の場合は告示対応のワイヤー工法の適用は難しいと思われる。ネットで落下防止対策をとる方法は、ネットの支持構造部も含めて構造計算が必要になるため、やはり容易ではないだろう。
またフェイルセーフ技術には、国交省告示には対応していないが、現状の天井下地材を天井裏から引っ張り上げる工法がある。これは天井裏のキャットウォークから既存の天井下地をワイヤー等で吊り上げるもので、客席側には足場は不要だ。また天井下地と天井板に穴を開けなくてはならないが、天井の裏側からワイヤーで天井板ごと吊りあげる工法も開発中だ。天井下地の落下だけではなく天井板の落下低減にも有効な工法であり、これも足場は不要である。
耐震天井の改修の基本は、まず接合部の部材各部を強化すること、ブレース(斜め補強材)を入れて揺れないようにすること、クリアランスをとることの3点である。
なお、天井全面ではなく一部分だけの耐震改修は、その補強したところに大きな地震力がかかる可能性もあって非常に危険であり、避けるべきである。
参考:国土交通省監修『天井の耐震改修のススメ』
http://www.kenchiku-bosai.or.jp/files/2015/04/de99f2fef9475f74423b91868f31d972.pdf
複雑な仕様の天井の耐震改修の方法と注意点を知りたい。
国交省の指針には特定天井を検証するルートとして「仕様ルート」「計算ルート」「大臣認定ルート」の3ルートが挙げられているが、遮音のために重い天井板を複数枚貼っているホールの天井の場合、一般的に、仕様ルートは吊りボルトの直径の制限があって対応が困難である。我々は計算ルートのユニット試験のデータを用いて対応している。
ホールの複雑な天井の改修方法について具体例を挙げる。
折り上げ天井の中間にシーリングライトが組み込まれ、天井の段差部分に空調の吹き出し口があるような場合、空調機器は空調機器で、天井は天井で、個別に耐震改修をする必要がある。天井と設備機器は両方別々に動くので、それぞれの動きに対して6㎝以上クリアランスをとる必要がある。空調ダクトは、天井が動いても追随する蛇腹状のものが望ましい。そうしないと、ダクトが脱落したり、天井か設備のどちらかが壊れたりする可能性がある。
ドーム型やアール型の構造の天井の場合は、国交省の示したルートに対応しようとすると非常に複雑な試験が必要になるため、まず対応は難しいと考えてよい。これに対して我々は、構造体自体にC型の軽量鉄骨をアール加工して取り付け、天井板を直接貼っていく方法をとっている。この場合、張り物やボード貼り用のタッピングビスまで設計士が構造検討することが重要であり、それらを理解して対応できる設計者に設計を依頼することがポイントになる。
特定天井の詳細な調査には、どのくらいの費用がかかるか。
天井耐震診断には、パノラマ写真を撮らない場合、撮る場合の2種類があり、パノラマ写真を撮影する方が高額になるが、ホールの調査の場合には天井だけではなく、設備機器の状況がすべて把握できる方が望ましいため、我々はパノラマ写真の撮影を勧めている。なお、料金は天井高の高さや、キャットウォークの有無によっても異なるほか、高解像度の写真を希望される場合や、深夜の対応が必要な場合でも料金が異なってくる。脚立を使用して点検口から耐震診断できる天井で基本料金は20万円程度から、また音楽ホール等の文化施設に多いキャットウォークからの耐震診断の基本料金は32万円程度からとなっている。基本料金は日本耐震天井施工協同組合のホームページにも掲載している。
ゼネコンの天井調査の見積りは日本耐震天井施工協同組合の基本料金より大幅に高額となる事が多いようだが、ゼネコンには設計から仮設足場計画、設備類の耐震化、そして耐震天井施工の提案まで一貫して行えるというメリットがある。
数年前に行った天井の耐震補強は、現基準と照らして十分といえるか。
現基準は旧基準に比べて非常に厳しくなっているため、十分ではないと考えられる。設計水平震度でいうと、旧基準では天井は1Gが指針とされたが、現基準は最高2.2Gと、倍以上である。実際の状況は吊り元からしっかり調査して構造検討し、耐震設計をしてほしい。
日常的な、あるいは地震後の目視点検等で天井裏に入る場合、どのような箇所に注意して点検すべきか。
法律には、天井材の劣化と、損傷が最も速く進行すると考えられる箇所の点検について書かれている。損傷が進みやすいのは、設備機器の周りや段差部分、壁際部分など、結露等の水ぬれが生じやすい箇所である。天井の角度が変わるところの接合部分も壊れやすい。
天井材の外れ、緩みや劣化については、まずは吊りボルト、ナット、ハンガーを確認する。ハンガーにナットが2個ついていて、緩んでいないかどうか、そして野縁受けや野縁と見ていき、最後に天井板のタッピングビスのピッチや留め方までしっかり確認する。
点検口があっても、全体を見るためにキャットウォークから点検することが重要である。キャットウォークがない場合は、全種類の天井材を見ることができる点検口から見る。キャットウォークも点検口もない場合は、照明設備を外してカメラを天井裏に入れて撮影するなどして調査しなくてはならない。いずれにも該当しない場合は、天井板を取り外すなどして天井裏の点検を可能とする措置をとることが、法律で定められている。
また、ホールまで行く通路の天井も耐震診断を推奨する。特定天井ではない通路の天井裏は法律上は定期調査が義務付けられていないが、特定天井であるかないかは関係なく、エントランスも含めて避難通路は防災上も重要な施設なので、定期的に調査しておくべきだろう。
これまでの定期調査等で異常はなかったケースでも、調査士が専門知識を有しているかどうかで結果は異なってくる。耐震診断にはとても重要な吊り元が写真に写っていない(調査されていない)ケースもあるので、調査、点検は天井耐震診断士などの専門家に依頼してほしい。
天井の耐震改修に対応できる業者を教えてほしい。
大手の設計事務所なら大体間違いがない。まずはホールの元設計をした設計事務所に相談するとよいだろう。日本耐震天井施工協同組合と提携している設計事務所の紹介も可能だ。
なお、特定天井の耐震改修に関して価格入札は避けた方がよい。プロポーザル方式(提案型)により、告示771号対応の耐震天井をしっかりと理解している設計事務所しか入札できない方法をとることが望ましい。