平成27年度「劇場・音楽堂等施設改修相談会」
2.舞台設備改修について
草加叔也
(有)空間創造研究所 代表
(公社)全国公立文化施設協会 アドバイザー
公立文化施設の老朽化への対応が急務になっています。
建築後の施設の劣化は、初期故障・初期不良の時期から安定期の偶発故障期間と進み、さらに年数が経つと摩耗故障期間に入り、いわゆる経年劣化が発生します。舞台設備では音響設備が3年〜5年で摩耗故障期間に入ります。卓や制御盤などの経年劣化は15年を過ぎてから急速に増え、そのケアのための支出も増加します。
施設の生涯経費(ライフサイクルコスト・LCC)に占める建設費用は一部で、建築物の企画計画段階から、建設、設計、運用管理および解体・再利用段階のすべての間にかかる経費は、建設費の3~4倍といわれています。ですから、改修の入札で、ある会社の建設費用が最も安くても、他社の入れる設備のランニングコストが安ければ、生涯経費は低くなる可能性もあるわけです。
劣化には、開館からの経年数や使用頻度などにより物理的に発生する「経年劣化」、時代とともに設備・機能が新たなものに変わることによる「機能劣化」(音響のデジタル化、舞台照明のLED化等)、時代や利用者の要請により改善が求められるようになる「性能劣化」(耐震性能、バリアフリー化、遮音性能など)があります。舞台設備に関しては、近年、経年劣化に比較して機能劣化に投資すべきコストが急速に増えています。
中長期管理計画の立案にあたって大切な点は以下の通りです。
- 建設工事記録、竣工図、工事費の保存
記録は竣工当初のものから保存しておく。 - 過去改修履歴の整理と経費の記録
過去に実施した改修内容、時期、費用を確認するのに参考になる。 - 中長期改修予測と必要な経費の顕在化、経費の確保
中長期の予算の確保のため、将来的なコストのピークの時期や、閉館や計画通知を伴う可能性を早めに顕在化させる。 - 長期の改修想定と必要経費の試算
築後50年程度を目安に点検に関する法令、建築及び建築設備、さらには舞台設備の改修および更新周期等を目安にしながら、改修計画フローを作成。 - 閉館を伴う改修かどうか
閉館を伴う場合、条例上定められている貸出し期間前に市民に告知する必要があり、それには改修期間や行政的な予算の裏付けの確認が必要となる。少なくとも2~3年の準備期間は必要ということ。建築計画の変更を伴うかの確認も重要。
最後に、老朽化施設の運営のポイントを列挙します。
- 日常的な点検
- メンテナンス事業者との情報交換
- 利用者からの意見聴取
- 修繕や改善等の過去履歴の保存
- 新しい技術や設備に対する情報の収集
- 近隣施設の改修等の情報収集
- 技能取得や専門知識の向上
- 改修更新の緊急性・必要性の根拠の整理
- 中長期維持管理計画の策定
改修・改善とは施設や設備を初期状態に戻すことではなく、将来の活動や事業を見据えた投資として位置づけるべきものです。将来に向けてどう投資をしていくのか、ぜひ考えてください。