平成27年度「劇場・音楽堂等施設改修相談会」
1.大規模改修のプロセスについて
本杉省三
日本大学 理工学部 教授
(公社)全国公立文化施設協会 アドバイザー
公立文化施設の維持・修繕・改修が必要な理由は、主に時間的経過に伴う施設の老朽化や法の改定などによるものですが、近年それに加えてその実行を困難にしている背景として、急激な人口構成の変化と少子高齢化、産業と行政基盤の変化、東日本大震災で顕在化した自然災害への備えがあります。今日でもまだ高度成長期の頃のような発想をする自治体もありますが、社会構造の変化は非常に大きく、施設の位置付けや規模縮小も含め、考え直すべき点は少なくないように思います。
考え直す際の拠り所は、文化芸術振興基本法、自治体が開設時に作成した設置条例や文化振興に関する条例等に記述されている施設の活動目的です。条例などに規定されている目的と施設の実態を一致させるように活動していくこと、そのために施設をどう改修していくかを考えていくことが必要です。
高度成長期やバブル期にできた公立建築物の老朽化が進む一方で、自治体の財政は厳しく、改修予算の確保が難しい状況にあります。しかし、民法や建築基準法にある通り、施設の所有者や管理者にはその施設を安全に維持管理する責任があります。公共建築のマネジメントは今後の大きな課題ですが、自館の在り方や地域における位置づけなどを考えるきっかけとして、プラスに捉えて取り組んでください。
劇場・ホール建築は、舞台機構・照明・音響設備など施設特有の設備があり、高所作業、暗所作業を限定された時間で行わなければならないなどの危険も潜んでいます。このため、一般の建築物より丁寧な施設維持管理や、計画的な修繕改修、定期的な保守点検がより重要になります。
改修する具体的な根拠には、耐震性、バリアフリー性、防災性、劣化度、持続性、コストがあり、そこから改修の必要性と論理を組み立て、予算確保を行っていきます。
そして、管理者は以下のことを日常的に心掛けておく必要があります。
- 自分の施設の特徴・設備・技術を知り、職員全体が共通認識を持つ。
- 建築及び設備図面と改修履歴書類の整理・保管する。
- 日常的な清掃点検とその記録を集約し、改修が必要な箇所は、図面・写真等を添えて書面で所轄に報告する。
これらの事柄を確実に実行していくことと自らの知識・技術を研鑽していくことで、管理者としての義務は果たしているとみなされます。
施設設置者は、こうした情報を管理者と共有し、
- 年次計画、中長期計画の立案と実行
- 情報公開
を進めていくことが求められます。
平成26年4月の法改正で、劇場・音楽堂等の天井(特定天井)には、より安全性が求められるようになりました。平成27年4月からは、定期報告の調査・検査の項目、方法、判定基準が法令上明確化され、定期調査にも以前より厳しい条件がつけられています。
天井改修の方法としては、天井を設けない(除去する)、吊り天井を廃止し建築構造体と一体的な構成とするなど、いくつもの方法が考えられます。『劇場・音楽堂等改修ハンドブック』には大規模改修の具体例を掲載しているので、参考にしてください。
改修に関しては、国もさまざまな支援を行っています。補助金も確認しながら、より長い目で計画していきましょう。改修の目的・方針に関する主な項目も同書21ページに掲載しているので、それを参考に進め方を考えるとよいでしょう。