改修相談

注意すべきポイント

5-1 バリアフリー対応のポイントは?

バリアフリー新法により整備が必要となる範囲

平成18年(2006年)12月20日に施行された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法)」では、施設設置管理者が講ずべき措置として、公共交通機関や特定の建築物を建築する場合、施設ごとに定められたバリアフリー化基準への適合が義務づけられました。また、既存の当該施設等の施設設置管理者には建築物移動等円滑化基準に適合するように努力義務が課されました。
具体的な整備基準は、最低限のレベルを示した建築物移動等円滑化基準と、より望ましいバリアフリー化の内容を定めた建築物移動等円滑化誘導基準に分けられ、整備の基準としては

  • 車椅子が円滑に通れる出入口の幅と前後スペース
  • 車椅子での通行が容易な廊下等の幅
  • 傾斜路[スロープ幅、スロープ勾配、手すりの設置]
  • エレベーター[出入口の幅、カゴの奥行き、カゴの幅、乗降ロビー]
  • トイレ[車椅子使用者便房の数、オストメイト対応便房の数、低リップ小便器等の数]
  • アプローチの通路幅
  • 駐車場[車椅子使用者用駐車施設の数、車椅子使用者駐車施設の幅]
  • 見やすくわかりやすい案内表示
  • 案内設備に到る経路[視覚障害者誘導用ブロックの設置または音声誘導装置の設置]

が挙げられます。
施設を整備し建築物移動等円滑化誘導基準認定を受けた場合、建築物や広告にシンボルマークを表示することができ、容積率の特例や税制上の優遇、補助制度(バリアフリー環境整備促進事業)を受けられるメリットがあります。

シンボルマーク

バリアフリー対応のポイント

トイレ
トイレについては、もっとも基本的な改善として、催しによって男女比が変えられる設計の検討があります(男女間の間仕切りが移動でき、トイレのスペースが変化する)。ただし、こうした改修は困難な場合が多いため、男女の入口のサインを催しによって変える方法も検討されます。
混雑を避けるための人の誘導としては、個室ブースにセンサーをつけ、わかりやすい目印をつけるなど、空いている個室を一目で認識できるようにする改修が有効です。また、和式トイレの洋式への変更を行う場合も多いと思いますが、この際には、スライド式や折戸の扉を使うなどして個室数を減らさない工夫が必要となります。

喫煙スペース
喫煙スペースについては、喫煙室を設けるより、屋外に屋根つきのコーナーを設けるなどして施設建物内は禁煙にするところが増えています。また、喫煙スペースの確保においては、観客用だけでなく、出演者・スタッフ用等複数の場を計画することが求められます。

サイン
設計時には、設計者にとって人の動きが見えにくく、サインは小さくなりがちであること、また開館当初は利用者が建物に慣れていないこと等から、サインについては、開館からある年数が経った時点で見直しをかける必要があります。また、バリアフリー対応として、点字や浮き彫りのような立体的な表示も必要です。

そのほかのバリアフリー化
平成27年度に国からも高齢者、障害者に関する新しい基準が発表され、エレベーター、エスカレーターは高齢化やバリアフリー対応で欠かせない設備となりました。
施設全体のバリアフリー化にあたっては、まず、敷地から建物に入るまでの障壁をチェックし、階段のスロープ化、手すり設置、車椅子の方々の専用駐車場を入口近くへ設置する、などを考えることが重要です。スロープ化ができない場合、段差解消機を設置する方法もありますが、できる限り施設そのものをノーマライゼーションする方向で改善していくことが望ましいと考えます。
建物のドアは、車椅子の方のためには、引き戸にすることが望ましいですが、劇場内の客席とホワイエ間の扉には、遮音性能が求められるため、引き戸化が難しくなっています。そのため、会議室やトイレの扉など、できる範囲で取り組むこととなります。
段床の客席には手すりを設置したり、車椅子ではなく一般席を要望されるときのために車椅子から乗り移りやすいように椅子の肘掛け手すりを開閉式にしたりすることを検討すべきです。

5-2 定期調査報告が厳しくなったと聞くが

国土交通省は、「建築物の定期調査報告における調査の項目、方法及び結果の判定基準並びに調査結果表を定める件」の一部を改正し、平成27(2015)年4月より施行しました。これにより、定期報告の対象となっている建築物に設けられた特定天井は調査が必要となりました。
定期調査の対象とされる範囲が、これまでの「概ね500m2以上の空間の天井」から「特定天井」に変更され、調査方法も「設計図書等による確認と必要に応じた双眼鏡等による目視確認」から、より強化された方法になりました。調査の項目としては、①天井の室内に面する側の調査、②天井裏の調査(特定天井の天井材の劣化及び損傷の状況)があり、方法としては基本的に目視による確認が必要となります。

国土交通省告示 第282号の改正(平成26年11月)

なお、平成28年6月から運用が始まった新たな制度では、資格者制度自体が見直されております。建築物の「調査」、建築設備・昇降機の「検査」については、それぞれ法令に基づく資格者でなければ実施できないこととされています。
また新たな定期報告制度の施行に伴い、報告の対象が変わりました。
今までは、地域の実情に応じ、特定行政庁(建築主事を置く地方公共団体)が報告の対象を定めていました。今回の改正により、避難上の安全確保等の観点から、

  1. 不特定多数の者が利用する建築物及びこれらの建築物に設けられた防火設備
  2. 高齢者等の自力避難困難者が就寝用途で利用する施設及びこれらの施設に設けられた防火設備
  3. エレベーター、エスカレーター、小荷物専用昇降機

を国が政令で一律に報告の対象としました。

5-3 天井改修時のポイントは?

特定天井の改修が必要になる場合

建築時には適法に建てられ、その後の法令改正や都市計画変更等により、現行法に対して適合しない部分が生じた建築物を既存不適格建築物と呼びますが、既存不適格建築物となった建物を改修する場合、建物全体を現行の法規、法令に適合させる必要があり、一定規模以上の増築、改築、大規模修繕、大規模な模様替え、用途変更を行った場合があてはまります。建築基準法によれば、具体的にはそれぞれ以下となります。

  • 増築:「一つの敷地内にある既存の建築物の延べ面積を増加させること(床面積を追加すること)」をいい、既存建築物の内部(吹き抜けなど)に新たに床面を作る場合もこれにあてはまります。
  • 改築:「建築物の全部又は一部を除却し、又はこれらの部分が災害等によって滅失した後、引き続いて、これと用途、規模及び構造の著しく異ならないものを造ること」をいいます。
  • 大規模修繕、大規模な模様替え:「建物の主要構造部(柱、梁、屋根、床、外壁、防火区画壁、階段等)の過半を造り直すこと」で、同じ材料で造り直すのが修繕、それまでと違う材料で造り直すのが模様替えです。
  • 用途変更:建物全体の用途を変更する場合と建物の一部を用途変更する場合があり、たとえば倉庫の一部を店舗に変更するなどが一部の用途変更にあてはまり、注意が必要です。なお、緩和措置がありますので詳細は各自治体に確認してください。
    なお、既存不適格建築物状態(施設の改修を行わない既存状態)のまま天井を耐震化する手法もあります。当該天井を耐震診断した上で天井裏に補強を施す、天井下部にフレームを新設し落下防止ネットを張る、などの方法で、地震により天井部材が万が一脱落した場合でも、一気に客席まで落下せず観客が避難できます。

[小松市民会館] L型鋼による天井裏補強と新設されたキャットウォーク

小松市民会館

写真提供:本杉省三 日本大学名誉教授

特定天井以外の天井の改修は必要か?

特定天井とは「脱落によって重大な危害を生ずるおそれがある天井。6m超の高さにある、面積200m2超、質量2kg/m2超の吊り天井で人が日常利用する場所に設置されているもの(国土交通省告示第771号第2)」を指し、ホール客席部分やホワイエ、エントランスホール等の天井は特定天井に該当する場合が多くなります。
また、建築基準法施行令第39条には「屋根ふき材、内装材、外装材、帳壁その他これらに類する建築物の部分及び広告塔、装飾塔その他建築物の屋外に取り付けるものは、風圧並びに地震その他の震動及び衝撃によって脱落しないようにしなければならない。」とあり、特定天井か否かにかかわらず、地震によって天井が脱落しない設計、施工が求められています。
ただし、天井に関する法律が改正されるまでは天井脱落対策に係る基準がありませんでしたので、設計者・施工者の経験等によって設計、施工が行われてきました。ホール利用者、来訪者、スタッフ等の安全を守るためにも特定天井以外の天井も改修が必要になる場合もあります。

天井脱落対策

なお、平成28年国土交通省告示第791号の施行に伴い、いわゆる、壁と天井との間に隙間のない天井の仕様も追加されました。

特定天井の調査にかかる費用

改修設計、工事を行うためには天井耐震診断を実施し現状の天井裏の状況把握が必要となります。
天井耐震診断には、パノラマ写真を撮らない場合、撮る場合の2種類があります。パノラマ写真を撮影する方が高額になりますが、ホールの調査の場合には、天井だけではなく、設備機器の状況がすべて把握できる方が望ましいため、パノラマ写真の撮影を実施した方がよいでしょう。なお、料金は天井高の高さや、キャットウォークの有無によっても異なるほか、高解像度の写真を希望する場合や、深夜の対応が必要な場合でも変わって来ます。基本料金は日本耐震天井施工協同組合(JACCA)のホームページにも掲載されているので、参考にしてください。
ゼネコンの天井調査の見積りは日本耐震天井施工協同組合の基本料金より大幅に高額となることが多いようですが、ゼネコンには設計から仮設足場計画、設備類の耐震化、そして耐震天井施工の提案まで一貫して行えるというメリットがあります。料金だけでなく、このメリットも含めて検討をした方がよいでしょう。

日本耐震天井施工協同組合(JACCA) ホームページ

5-4 設備などの更新目安は?

建築設備の耐用年数

ひとことで何年とは断定できませんが、電気設備で20~25年、空調設備で15~25年、衛生設備で15~20年が一つの目安として考えられます。
改修にあたってはイニシャルコストのみで判断せず、省エネルギーの視点やランニングコストなど、総合的に判断する必要があります。
特に省エネルギーは設備更新の中心的な課題で、建築設備だけで解決できる問題ではありませんが、熱源の見直しによるCO2排出量の削減、LED 照明や太陽光発電設備の設置、最新のビルマネジメントシステムの導入による監視体制の一元化、最大需要電力量の圧縮と平準化など、総合的な省エネルギー化を図ることが重要となってきます。
さらに、公演中に照明が切れる、トイレからの漏水が起こるなどの突発的な事故が起きて利用者や来訪者の信頼を損なわないように、普段から設備担当者、メンテナンス担当者、設計者と密にコミュニケーションを図り保全計画をたてることが重要です。

舞台設備更新時期の目安

音響・照明や舞台機構の更新時期は一様ではなく、施設の老朽化以外にも機能改善・変更が大きな目安となります。
舞台・照明・音響・映像等の技術は日々進歩しており、新設の劇場・ホールは、標準的な設備も高レベルになっています。それに伴い、利用者が制作する公演についても演出形態の多様化や高度化が進んでいます。公演誘致や施設利用率の向上を図るには、このような利用者ニーズの変化に対応する必要があるため、耐用年数に達していない場合でも設備更新が求められることは少なくありません。
日頃から利用者のニーズを探っていくことで、改修や更新時期が推定されるのではないでしょうか。また、公演中に舞台設備が壊れることがないよう、普段から技術担当者と密にコミュニケーションを図り保全計画をたてることが重要です。

エレベーターの改修時期について

エレベーターの定期検査の義務は建築基準法第12条により定められています。
これとは別に平成23(2011)年3月に発生した東日本大震災においてエレベーターの釣合おもり(カウンターウエイト)やエスカレーターが落下する事案が複数確認されたことから、平成25年7月「建築基準法施行令を改正する政令」が公布され、エレベーターおよびエスカレーターなどの脱落防止措置に関する建築基準法施行令、告示が制定及び改定され平成26年4月1日に施行されました。
したがって、定期検査では改定されたエレベーター等の脱落防止対策関連告示に適合しない部分に対し「既存不適格」との判定がなされ、結果を所轄の特定行政庁に報告することになります。ただし、「既存不適格」と判定されても、違法性を問われるものではないので引き続き使用することができます。

5-5 関連情報

5-6 複合施設内のホール改修時に、他のテナント等の一部を一時的に占有したいが補償は必要か。

複合施設の中の最上部にあるホールの大規模改修を考えているが、同じ複合施設内の下の階にあるテナントの一部の場所を給排水管の工事のために2,3か月占有する必要がある。占有にあたり補償金は法的に必要か。

  • 直接該当する案件ではありませんが、「上層階と下の階の間の隣接不動産間の使用権に関する法的問題」である点で,土地の隣地使用権に関する民法209条から238条の規定が参考となります。
  • 建物の建築,修理をしようとする場合,足場を組んだり,材料を搬入したりするために隣地(隣り合う不動産)を使用しなければならない事態では、一時的な隣地の使用が認められるというものです。ここでは、相手が承諾している場合の補償・償金の有無,ということになります。
  • 償金請求権について,民法209条は次のとおり定めています。

民法 第二款 相隣関係
(隣地の使用請求)
第二百九条 土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
2 前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

  • 下の階のテナントの一部を壊して足場を組む場合には、その原状回復費用のほか使用相当額の利得ということが事例としてあり得ますが、その場合も下の階のテナントがその期間に得られたであろう利益(売上から経費を差し引いたもの)全額までも補償すべきとは直ちに考えにくいところです。
  • 他方で,今回の排水管工事により,建物の価値が,そのままにするよりは維持されたという点を「利得」とみるならば,当該期間相当について下の階のテナントがどの程度の不便を被ったのかも参考にしつつ,何らかの償金を支払うべきこととなります。

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