改修相談
改修計画の立て方
2-1 改修のプロセスを教えてほしい
施設改修に向けた準備や実施での留意点は、社会情勢や自治体内における公共建築マネジメントの観点を踏まえて、施設として目指すべき活動の方向性を明確にすること、地域における施設の位置付けを確認すること、改修後さらに何年程度を目処として施設を維持保全するのか、などといった問題に率直に向き合うことです。
利用実態を把握する
公立の劇場・ホールは建設当初にさまざまな議論が行われて実現したとしても、時間的な経過のなかで次第に利用内容や年齢構成などに変化が現われてきます。文化活動団体や施設利用者(主催者)、身体障害者、観客、また事業や舞台技術を担当するスタッフ、清掃員や警備員などが直面してきた課題などを幅広く具体的に整理し、改修すべき箇所や範囲を明らかにして行くことが必要です。改修だからといって、それらを急いで集めようとしてもなかなか容易に集まるものではありません。普段から各担当者が日誌などで課題点などを記録しておくと共に、職種や職責を異にしているメンバーが定期的に集まり情報を交換することで課題や改善点を共有化しておくことが大切です。
設計変更を考慮した予算確保が必要
改修工事が新築工事と大きく異なっている点は、事前に予測できない事態が必ずあるということです。改修工事においては、仕上げや設備等に隠れて見えなかったことや図面との不一致等、事前調査を行ってもまだわからないことが数多く現われてきます。そうした事態をある程度見込んでおくこと、万一追加工事が必要になった場合の対処方法についてもあらかじめ予測・検討しておくことが工事を遅滞なく進めるうえで大切です。
しかし、余分な予算を組むことはできませんから、時間と予算をかけてしっかりした調査を行うこと、その後の設計においても漏れのないように設計図書化して工事入札に臨むことが必要です。仮に、変更や増額工事が必要になった場合でも、議会の議決を経ずに専決処分できる範囲内にとどめるなど工事内容や規模に関して工夫が求められます。
設計・工事にかかわることが重要
改修計画から工事に至るプロセスにおいて、できるだけ調査から設計・監理までを一貫して行えるような筋道を整えておくことが望ましいといえます。基本設計・実施設計・監理をそれぞれ異なった組織で行ったり、監理を切り離して自前で行ったりしようとすれば、書類に表われにくい事柄等において、どうしてもうまくいかない部分や後戻りが生じかねません。
設計・監理を委託したといっても、限られた予算のなかですべての設計が矛盾なく収まっている、図面通りに出来上がっているわけではありませんから、施設の担当者もできるだけ参加し、気付いたことを設計事務所に連絡相談することです。直接施工会社に伝えると指示・連絡系統が混乱し、新たな責任問題を引き起こす結果になるので、そこは注意が必要です。
日頃からの点検が重要
大規模改修工事では、長期休館や予算の確保など、非常に難しい課題が出てきます。重要なことは、日頃から自館の問題点を抽出し、改修箇所の優先順位をつけ、短期・中期・長期の視点で計画を作り、関係部局と情報共有を図ることです。予算要求でも、緊急度や重要度の序列を決めて、各部位が駄目になった時にはどのような事態を招くかなどを想定し、リスト化して説明し、改修計画の実現に努めていきます。
大規模改修計画の一般的な流れ
出典:劇場・音楽堂等改修ハンドブック2015
2-2 優先順位のつけ方で注意することは何か
第一の優先課題は人命保護
最優先すべきは、人身事故が起きないことです。舞台機構のワイヤーロープや迫りの不具合は大きな事故につながる恐れがあります。古い迫りなどでは、安全装置がついているか、落下防止ネットがついているか、奈落の乗込み口に手すりがついているか、それらがきちんと動くかどうかの点検等、最優先に取り組むべき課題です。
公演中止となる事故を防ぐ
次に優先するのは、公演中止に至るような事故を防ぐことです。たとえば、舞台照明の制御盤の部品一つひとつには耐用年数があります。小さな装置でも、部品が1個壊れただけで舞台照明がつかなくなったりしますし、舞台照明の制御盤は経年劣化によって突然ブレーカーが落ちたりすることがあります。過去の事故履歴を調べ、経年数から安全性を考え、また操作性能や今日的な演出の可能性も視野に入れるなどして、メンテナンス事業者と情報交換をしながら更新・改修を進めることが求められます。計画立案にあたっては、過去の改修履歴を、金額面も含めて、整理した表を作るとわかりやすくなるので、まずこれを行いましょう。
2-3 特定天井の改修をどう進めるか
計画に余裕があることが重要
改修工事一般に言えることですが、特定天井の改修についても施工までに相当の時間がかかるので、余裕をもった計画で進めることが肝要です。とりわけ、助成金、補助金などを活用する場合には、なおのこと十分な余裕をもって計画を進めたいものです。公共施設の場合は、議会の承認が必要になる場合が多いので、議会のスケジュールも非常に重要になります。
まずは意思決定機関の設定をし、設計者・施工者の選定方法を決め、調査・診断の手配を行います。特定天井改修の基本は天井の落下防止です。そのためには天井をなくすか、耐震天井に変えるかないしは補強するか、または建物と一体化して固定するなど損傷しても脱落しないつくりにするか、あるいは落ちた場合に防護ネット等で頭上にまで落ちてこないようにするか、改修方法について検討しなければなりません。調査・診断の結果を踏まえ改修方法を決め、発注条件について詰めたうえで、設計者や施工者、及び監修者等を選定します。
早めに技術者・コンサルタントに相談を
具体的な改修方針について承認を得たら、各種の詳細調査、試験により設計・施工に必要な情報を収集します。さまざまな実証実験やモックアップなどを重ねながら性能を決めていきますが、天井の場合その作業は長く続きます。資材発注を早めに行うためにも、設計契約も十分に前もって行っておく必要があります。でないと、発注してから時間がかかる鉄骨をはじめ資材が間に合わず、予定通り着工できなくなる可能性があります。
いつ何を実際にやるのか、そこから逆算して工程を組んで実行していくことが重要となります。できるだけ早期に、経験のある技術者やコンサルタントと進め方も含めてスケジューリングを検討することをお勧めします。
改修工事スケジュール例(建築会館ホール)
資料提供:清水建設(株)櫻庭記彦氏の資料を元に作成