改修相談
改修を考えるにあたって
1-1 改修を考えるうえで大切な視点は何か
改修を考える際に求められること
改修を考えるにあたっては、建築時とは異なる発想で、今後の改修・修繕を見通したうえでの計画が求められます。施設の開設時から今日に至るまで経済や社会の状況は大きく変化し、またその間、度重なる大規模災害に対する経験から、施設に求められる安全性やバリアフリー、快適性についての考え方やレベルは、大きく異なってきています。空調・電気等の建築設備や舞台照明等の舞台設備においても、機能・性能の維持・修繕は言うに及ばず、この間の技術革新に伴う設備更新も必要とされています。また、経済・財政事情ゆえに施設運営・維持に中長期的経済性も求められるようになっています。大規模地震などによる復旧では、それほど重度でない工事でも1年程度にわたる休業などを余儀されていることから、できるだけ早い対策が望まれています。
10年先に向け施設全体の計画・理念の再構築を
新築が「利用想定による設計作業」であるのに対して、改修は「利用実態に基づく第二の設計作業」とも言えます。それまで利用して来た経験知に基づいて、施設の10年後、20年後の利用像を再度想定し、その活動に対して不足しているものを検討する「これからの10年に向けた施設全体計画・理念再構築」を施設設置者・運営者とも具体的にイメージすることができます。改修をハード面の問題として捉えるだけでなく、「ソフト」「運営」についても見直す機会と考えていただければと思います。
安易な施設更新は、CO2排出・地球環境問題の観点からも慎まなければならないとされ、また、自治体財政も厳しき折、できるだけ施設を長持ち(長寿命化)させることが求められています。各自治体は、自らが策定した公共施設に関するマネジメントを拠り所に、施設の中長期修繕計画に従って計画的な修繕や改修を心がけ、日頃から小さな修繕・改修を意識しながら施設維持・整備を図っていくことが望まれます。
1-2 初めて大規模改修をするうえでのポイントは何か
大規模改修を進めるうえでの留意点
最も大切なことは、利用者である市民に周知し、理解を得ることです。このための説明会や市民参加の各種プログラムの実施が求められます。
また、これまでの改修履歴(工事内容・予算と最終工事額・図面・写真等)を整理し、関係者が情報共有できるようにすることも重要です。これを確実に実施することにより、指定管理者や担当者が変わっても、継続的に改修内容が伝えられ、その後の対応が容易になります。また、こうした資料は、予算獲得の際や、市民の理解を得るときの最もよい説得材料にもなっていきます。
資料:全国の公立文化施設の設置時期
(一財)地域創造の「平成26年度地域の公立文化施設調査」によれば、1960年代までに設置されたホールが198施設、1970年代394施設、1980年代719施設、1990年代1,625施設、2000年代433施設、2010年代89施設となっており、圧倒的に1990年代が多くなっています。
出典:(一財)地域創造「平成26年度地域の公立文化施設調査」
1-3 今すぐ天井の改修が必要か
新耐震基準以降の建物であっても改修は必要
昭和56(1981)年6月に改正された建築基準法施行令(新耐震基準)は、建築の構造体(柱・梁・壁など)が地震などで破壊されない最低基準を示したもので、天井等構造に関わらない建築部位については規定していません。それに対して、平成26(2014)年4月に施行された建築物の天井脱落対策関連告示(国土交通省告示第771号)は、脱落によって重大な危害が生じる恐れがある天井を『特定天井』*として規定し、新たな基準を設けたもので、両者は全く違うものです。特定天井の構造要件を満たしていない場合、天井の改修は必要となります。
(*特定天井:天井高さが6mを超える、面積200m2超の吊天井で、ある規模以上の多くのホールの客席天井は、それに該当します。また、吹き抜け状の広い面積を有するホワイエやエントランスホールなども当てはまる場合があります。)
ただし、平成26年4月以前に着工した建物は既存不適格建築物扱いとなり、一定規模以上の増築、改築や大規模修繕、大規模な模様替え、用途変更を行わないかぎり、早急な改修を行う法的義務はありません。
しかしながら、場合によっては「特に早急に改善すべき建築物(災害応急対策拠点、避難場所指定の体育館等、固定された客席を有する劇場、映画館、演芸場、公会堂、集会場等)」として改修を行政指導される可能性もありますし、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(平成7年10月27日法律第123号)における特定建築物となり、用途・規模に応じて(小学校等以外の学校・病院・劇場・集会場・展示場、百貨店、ホテル、プール、事務所等の用途で3階かつ延床面積1,000m2以上のもの)耐震診断義務や落下防止措置等の耐震改修工事の努力義務が科せられます。
特定天井をいつ改修したらいいのか
特定天井に該当する場合であっても、早急に改修しなければならないわけではありません。建築時には適法に建てられ、その後の法令改正や都市計画変更等により、現行法に対して適合しない部分が生じた建築物は「既存不適格建築物」と呼ばれ、「特定天井に関する改正建築基準法施行令」が施行された平成26(2014)年4月以前に着工されたホールはこれにあてはまります。
現状を維持していく限りでは改修する必要はありませんが、但し、今後一定規模以上の増築、改築や大規模修繕、大規模な模様替え、用途変更を行った場合、一定範囲の是正義務が生じます。建築基準法では、既存不適格建築物の増改築等を行う際に、原則として既存部分の現行法への適合を求めていますが、増改築等については既存部分への適用緩和措置を受けることができます。そうした緩和措置はありますが、できるだけ早い対応が望まれます。
なお、当該天井を耐震診断したうえで天井裏に補強を施す、天井下部にフレームを新設し落下防止ネットを張る、などの方法で、既存不適格建築物状態(施設の改修を行わない既存状態)のまま天井を耐震化する手法もあります。詳しくは「5注意すべきポイント」内の「5-3 天井改修時のポイントは?」をご覧ください。
1-4 相談はどこにすればよいか
設計事務所を選ぶポイント
まず建築時に設計を担当した設計事務所に相談するのが良いと思いますが、その設計事務所がなくなってしまっていることもあるかも知れません。その場合には、新たな事務所を探さねばなりません。
建築技術は日進月歩で進んでいますし、劇場・ホールの設計・施工は特殊な部分が多いため、地域によっては、なかなか地元の設計事務所・建設会社だけで対応できるものではないかも知れません。
大切なことは、建築を資産として意識・管理し、長期にわたって安心して利用できる状態に保つことです。そのために幅広い知識・技術を持った設計事務所を選定できる選択眼を自らが持たなければなりません。それが困難であれば、アドバイスを求めることができる第三者(専門家・コンサルタント)にまずは相談してみることです。
竣工後のメンテナンスや修繕・改修を考えると、いつでも相談ができ、迅速に対応してくれる関係者、そうした専門家や設計者との関係を地元に築いておくことも、長い期間を考えれば必要なことです。さらに、設計の理念、デザインの一貫性を保てる能力と信頼関係、施工技術の継承が保証されるものでなければなりません。
情報収集をしてしっかり選ぶ
そうした上で新築時の設計事務所に特命で発注できない場合には、プロポーザルなど広く提案を募集し、その技術力に基づいて設計者を選ぶことが望まれます。自館と同規模以上の劇場・ホールの改修実績・ノウハウと情報収集力を有する設計事務所であれば、心強いかも知れませんが、改修は新築以上に一つひとつ諸条件が異なりますので、それで安心という訳ではありません。まして、知人の紹介だから、著名な建築事務所だからなどの理由で安易に決めないようにしましょう。プロポーザルなど設計者選定で最も大切なことは審査員の構成です。設計者に高い水準を求める以上、その人や案を選ぶ審査員もまた高い専門性・知見・技術力を持った人でなければ道理が合いません。
なお、平成19(2007)年施行の改正建築士法により、建築士事務所の開設者は、設計等の業務に関する業務報告書を作成・提出することが義務づけられました(改正建築士法第23条の6)。
この業務報告書は一般の閲覧が可能です。業務報告書は、当該建築士事務所がどのような業務の実績があるかを建築主や消費者に情報開示することを目的としており、最寄りの設計事務所協会に行けば閲覧できますので、それらを判断基準の一つとすることもできます。